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心に沈める

四月十三日(土曜日)

 朝目覚め際に
「そうだ、スイッチさんはそれで私に声をかけてくれたんだなあ~」
今日、萩尾望都さんにお会いできるかもしれないのだ、ということが
まるで夢のようでした。


 一年に一度のこの「ゆきのまち幻想文学賞」のことを
私は最初の時から気になっていました。
なぜなら三人の審査員のお一人が萩尾望都さんだったから。

あの萩尾望都さんなのだ!

若い時
自分も漫画の世界にどれだけ影響を受けただろうということがあって
その中でも萩尾望都さんの作品は別格で
なにもかにもにただただ衝撃を受け感動し
幻想的な美しさをもった絵、さっぱりした笑いのセンスがあって
ストーリーの凄さもさることながら
人間というものに触れるということだったのかと思います。
漫画というもので表現されたものの凄さに敬服し
毎回その世界観に没頭したものでした。
「ポーの一族」などにいたっては一こま一こまが今も心に留まっており
セリフのフレーズなどはもう自分の心の中の一部と化しているだろうと
思われます。
若い頃自分は
永遠の時を生きるバンパネラの世界を思い
なぜ自分はバンパネラでないのだろうと
限りある生の中で生きる自分達人間のことを
また人間でないものとしてのバンパネラのことを
切なく思ったものでした。

萩尾作品の中で
自分の好きだったものに「AーA´」という作品ががあります。
宇宙開拓時代の設定のSF作品ですが
遠い星に行く前にもしもの時に備えて自分のコピーを
残していくのですが、
星に行く前までの記憶なども同時に残していて
何かあった時はまたその星に行く前の記憶を持ったコピーが
派遣されるということになっていました。
ある日派遣先の星での恋人であった彼女も事故で命を落とします。
その後残していたコピーが送られてきたのです。
死んだ恋人と同じ顔の人がその星にやってくるというところから物語が始まります。
この作品は
人間というものの関係性は
当たり前と思っている常識的なことではない時代背景や
環境変化の中で
どういうことを得ていくのかとか、
どんな葛藤がありそして感情と出会うのかというような
三十年以上前の作品でありながら
人間の心ということに深く深くかかわる作品だなあとあらためて驚かされます。
萩尾作品は漫画である故の
自由な背景設定の中である故に
人間というものがより浮かび上がってくるという凄みが
あるように思います。

心の葛藤やさまざまなことを思い体験するなかで
自分の世界観も影響を受けていくというのが
萩尾作品のすごいところであろうと思います。
絵の美しさもあり
交響曲の音楽を聴いたがごとき感動も同時にあって
本当に凄いと思います。



若い感受性の豊かな頃に
萩尾作品に出会い読みふけりました。
自分というものは萩尾作品で構成されていたと思うし
その影響もあっての自分であろうと思っています。

結婚してからの忙しい日々の中でも
萩尾さんの作品は秘密の宝箱のようなものだったし
あらためて単行本を買った作品も多々あります。


2011年三月十一日の東日本大震災そして郷里福島での原発事故があって
とりわけ原発のことを
考えないということはできないと思っています。
いろいろなつながりの中で
「ふくしまキッズ」への支援の曲を作らせていただいたのですが
本当に特に二年前の自分は
いったいどんな歌を歌えるのだろうかと
正直途方に暮れていました。

そんな時ツイッターでばななさんのつぶやきから
萩尾望都さんが「なのはな」という作品を描いたと知り
即本屋さんに走り掲載されている「月刊フラワーズ」を買い読んだのでした。
萩尾さんが福島のこと、原発事故のこと、福島で暮らす人たちのことを
描いた、
ということはまずそれだけで私にはなんだかすごいことだと思えました。
描かれていたものにそして私は
どれだけ心うごかされたことだろう。
描く世界が空の中に
ぼっかり浮かんでみえ、
私も時空をたどって福島に降り立ったように感じました。
そして
いっきに曲ができたのです。

そのことをスイッチさんに話していて
スイッチさんはそれを心にとどめてくれていて
今回の授賞式の会に「よかったら一緒に行かないですか?」と
声をかけてくれたのでした。

「koyomiさん、フクシマのCD持って行きましょう。
もし機会があればお渡しできたらいいですよね。」
そうスイッチさんは言ってくれました。

もし萩尾さんに
自分は「なのはな」を読んだことでこの曲ができたのです、
とお伝えすることができたら
それは奇跡だと思いました。

そして
その機会は訪れ、
そのことをお伝えすることができ
萩尾さんはこの上ない柔らかい声で
「聴かせていただきます」とおっしゃったのでした。


きっともうお会いすることはないかもしれませんが
福島のことを思うということで繋がるということが
私はやっぱり感動するのです。
福島のことはこれからの道のりは困難ですけれど
やっぱりまず忘れずに思っているということを私は大事だと感じます。

もちろん
八甲田ホテルでの
「ゆきのまち文学賞」の授賞式は濃く楽しく
とても面白かったのですが
審査員の先生たちの話、受賞者の話、どれも機微に富んでいて
また主催の人たちの細かい心遣いは本当にすごいと思いました。

萩尾さんは審査員の座談会の中で
「大事なのは心に沈める」ということだとおっしゃっていたのが
本当に印象に残ったのですが
「心に沈める」という言葉は
これからも自分を支えていくだろうと思えました。

「心に沈める」

萩尾さんが自分のCDを聴いてくれているでしょうか。
そして福島のことを思うということでまた
そういうことを「心に沈める」ことなのだ、と
私は胸に思いました。


スイッチさんありがとう。
いつも本当にありがとう。

萩尾望都さんは本当に本当に素敵な方でした。
これからも
萩尾作品を読んでいきます。

本当にいろいろありがとうございました。
by koyomitosima | 2013-04-17 06:37 | 書き留めておきたいこと

食べることと猫のことをあいも変わらず…


by koyomitosima